いかにして独自性の高い展示を実現していくか。中国の科技館の課題を考える
 中国において、「科教興国」思想のもと、この十年で、全国に多数の科技館が建設されてきた。現代的な科技館は、上海科技館を先頭に、広東科学中心、浙江科技館、そして新中国科技館などの建設開館へと続く。2008年北京オリンピック開催、2010年上海万博の開催。このあたりまでが、第一次の科技館建設ラッシュといえ、中国における大型科技館の建設が一気に推進されてきたと考える。
 その後、現在では、大型科技館建設の時代から中型小型科技館が全国に建設される時代に入って来たのではないだろうか。現在、科技館を設計する場合には、全国に建設された新しい科技館を多く視察すれば、参考になる科学主題、科学展示項目は容易に見つかり、展示企画設計が以前より、容易になってきているといえる。その反面、多くの科技館では、類似、共通の科学主題が眼につく。多くの科技館には、宇宙、交通、環境保護、エネルギー、生命、基礎科学と言った展示主題がある。どの省・市においても、その地域の青少年の科技教育を促進増進する趣旨から、必須となる科技主題は、どうしても共通してくる現象が発生する。その結果、多くの科技館に類似の主題・展示項目が存在することにつながってきている。
 この現象は、中国特有の問題ではなく、欧米日本など、世界がかかえる共通の課題でもあった。それぞれの科技館が独自性、オリジナリティをどうやって、創出していくか、どうやって他とは異なる魅力を持続させていくかは、大変重要な、世界共通の課題である。
この十年の科技館建設のなかで、早期に建設された科技館は、これから徐々に展示更新を行う時期に入っていく。今後は、さらに新しく建設される新科技館と展示更新が必要となってくる科技館がお互いに独自性、魅力を創出すべく競いあう「第二期科技館競争」の時代になっていくと考える。全国の科技館は、それぞれの施設の存在価値・意義を示す必要が出てくるはずである。

 この後、日本やアメリカの科技館の展示や活動などの事例をいくつか紹介し、科技館の独自性、特徴を維持していくために重要な人材資源、組織、ネットワークなどの構築について、考察する。

科学教育専門スタッフを育成し、現代社会に即応した企画展示を多く創出している日本科学未来館
 日本科学未来館は、2001年に開館した日本で3番目の国立の科学館である。最先端の科学技術を主題とし、すべての人々にわかりやすく伝えることを使命としている。科学普及、人材育成、ネットワークの形成を主要な活動方針としており、ここでは、その特徴的な人材育成について着目し、未来館の人気を生み出している特徴的な「企画展」実現について紹介する。
 未来館には、「科学コミュニケーター(科技交流員)」と呼ばれるスタッフがいる。彼らは、専門の科学者、技術者と一般市民との橋渡しをすることが目的で生まれ、具体的には、館内での展示解説、ワークショップの運営、展示(常設展、企画展)の企画、外部ネットワークの拡大構築などを行なっている。未来館では、短期から1年程度の研修により、科学情報コーディネーション能力、プレゼンテーション能力(科学説明)、ファシリテーション能力Facilitation(来館者の科学体験補助)のスキルアップを行ない、科学コミュニケーターの育成を行なっている。科学コミュニケーターは、20代の大学院生が中心である。若い世代の科学館専門スタッフの育成により、若い世代の感性や視点による特徴的な企画展の開催が毎年行なわれている。

 現代社会において、科学館の役割は非常に大きい。現代、急速に科学技術は進歩し、今では、科学技術の恩恵無しには、現代の社会や生活はなりたたない。科学技術の影響は計り知れないが、そのメリット・デメリットを十分に理解できないまま、我々市民は日々、科学技術とともに生活している。科学館は、複雑で理解しにくい現代の科学技術と一般市民との大きな架け橋である役割が期待されている。未来館の「科技交流員」はまさに、現代の若い世代の代表として、一般市民と複雑な科学技術との架け橋を行なっているわけである
 未来館の「企画展」設計制作にでは、科学交流員や外部の科学専門家のチームがまず展示主題や展示の概要を構築し、その企画(脚本)に基づいて、展示設計者(外部)が加わり、具体的な設計制作を行なっている

 「世界の終わりの物語」(2012年)

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 これは最近私が見た企画展のなかで特に印象に残っている展示である。2011年3月11日の「日本の大地震・津波」からほぼ1年後に開催された企画展である。この大地震は、日本人全体が人間の力の限界を知り、科学技術には、限界があることを強烈に認識した大事件であった。地震・津波の研究は、日本は世界一の水準にあり、ある程度の地震予知が可能で、津波に対する対策も基本的には問題ないと日本人の多くが認識していた。しかし、3.11の大災害は、その日本人の認識を打ち砕いた。現代社会において、科学技術の限界があるる分野は多くある。大災害、伝染病、寿命、地球温暖化、エネルギー問題、など。これらの問題は、科学技術の問題であると同時に、政治、経済、道徳、倫理など、様々な要素が複雑に交錯した問題でもある。現代では、科学技術の問題であっても、科学技術だけでなく、学際的な視点(様々な分野の横断する視点)で、問題を検討しなければならず、また100%の正答がない課題が多く存在する。
 「世界の終わりの物語」は、単に科学技術の主題にとどまらない。生命科学の話題、持続可能性社会の課題を越えて、「終わり」を考えることは同時に、「幸せ」とは何かを考える深い複雑な主題へとつながっている
 展示空間設計や展示手法は非常に簡単である。VRや機械装置を駆使した体験展示(単純なHANDS-ON)はない。MINDS-ONである。来館者ひとりひとりが考え、意見を出して、その意見をほかの来館者が見て、みんなで考える手法が多くとられている。このパネルでは、来館者に「○○年後に死ぬとしたら、それまでに、何をしたいか?」と問いかけている。
30年後に、死ぬとしたら。。。。
5年後に、死ぬとしたら。。。。
1年後に、
3ヵ月後に、
2日後に、
1時間後に、
3分後に、
5秒後に。。。。。
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 これは、単なる映像ですが、「あなたは、好きな食べ物をずっと食べ続けることができますか?」と問いかけている。たとえ、どんなに好きな食べ物であっても、永遠に食べ続けることはできないでしょう。また、一人でたくさん食べても、それで満足できるのだろうか。。。物理的欲望には、限りがないけれど、幸せとはなんだろうか。。。。と問いかけているのである。
「世界の終わり」展は、大震災の1年後に開催されたが、科学の未来を語るはずの日本科学未来館が、「未来の夢」ではなく、あえて、このような「死を語る」主題の展示を行なったことは大変意味深いと考えている。
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 そのほかにも、特徴的な企画展が多数ある。
「おいしく食べる」展 2009
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「おかね」展 2013
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「65億人のサバイバル」展 2006
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「ドラえもんの科学みらい」展 2010

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 これらの主題を見てもわかるとおり、「科学と現代社会・生活」とのかかわりを重視し、一般市民が興味を持ちそうな特徴的な内容が多い。未来館が科学と現代社会とのかけ橋になろうとしていることがよくわかる。
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